群島・人口・散歩

書評した本、気になっていた本のいくつか。

沼野充義さんの今福龍太『群島-世界論』評(毎日新聞):リンク

群島‐世界論

群島‐世界論

山内昌之さんのグナル・ハインゾーン『自爆する若者たち──人口学が警告する驚愕の未来』評(毎日新聞):リンク
自爆する若者たち―人口学が警告する驚愕の未来 (新潮選書)

自爆する若者たち―人口学が警告する驚愕の未来 (新潮選書)

『群島-世界論』については読売に書評を書いた。とても高く評価する点では沼野さんと同じなのだが、それこそ世代的なものかもしれない、ある違和感は残る(沼野さんは自分自身と同世代の西成彦さんや細川周平さん、そして今福さんの著作に通底する、越境への志向性を指摘している)。群島がオルタナティヴな思考のモデルであることは確かだとしても、どうしてもそれを一方的に称揚することに躊躇いがある。この書物が反復する波や汀のモチーフに惹かれながら、その幸福な甘美さに単調さを覚える。何かが物足りない。だから本書で記憶に最も強く焼き付けられるのは、奴隷船から「廃棄」された黒人奴隷の骨が珊瑚と一体化した白い海底の、おぞましくも美しい、鮮烈なイメージのほうなのだ。

『自爆する若者たち』は過剰なほど人口の多い若年世代(ユース・バルジ)の問題を文明史的に論じている。とくに重要なのは、人口のうえで突出した15〜29歳の「戦闘年齢」や「軍備年齢」の青年たちだ。この世代の存在が過去に戦争やテロを起こした原動力であり、ヨーロッパによる世界支配の要因だったという本書の主張にある程度の根拠が認められるとすれば、世界情勢が人口という「数」によって透視されうることになる。そこに浮かび上がる展望は非常に陰鬱だ。「戦闘年齢」、「軍備年齢」の男性集団をめぐる議論は「男性結社」のプロブレマティックと交差する。

前野佳彦『散歩の文化学〈1〉ホモ・アンブランスの誕生』『散歩の文化学〈2〉東洋的都市経験の深層』が届く。内容への期待とともに、ある種の不安があった。問題設定の重要性や著者の圧倒的な知識は認めるものの、構成や書法が独特なため、読者を極端に選ぶように思われる。

追記:『政治の美学』の一部と関連があるので、次の書評にも触れておく。
池田浩士さんの飯田道子『ナチスと映画』評(中日新聞東京新聞):リンク
ナチスと映画―ヒトラーとナチスはどう描かれてきたか (中公新書)
この書物の評価は、池田さんとは異なり、むしろ、現時点(2009.1.13)でのAmazonカスタマーレビューのそれ(「こうしたテーマに興味を持ち始めた高校生の入門書なら」)に近い。残念ながら、池田氏の言うような「鋭い示唆」はどこにも見いだせなかった。こうした次第では、「使い古されたテーマ」「食傷気味」と書かれても仕方ないだろう。これもまた遺憾なことではあるのだが。

さらに追記:
海野弘氏の書評(朝日新聞):リンク
この世代のひとたちはなぜこの本が好きなのだろう。こうしたテーマに敏感に反応してしまうからか。
「いくらでも難解になってしまうテーマなのだが、なるべく客観的にさらりと触れて、できるだけ広いパースペクティヴを与えてくれる入門書にしようとする意図は成功している」とあるが、いかにもこの評者らしい。そして、わたしはまさにこの点を評価しない。