杉橋陽一先生最終講義


アドルノの「仮晶」概念について。


グノーシス主義との関係をたどることで、思想史的連関が明確になった。
ユダヤ知識人のネットワーク形成をめぐるお話は、ちょうどバーゼルの富裕階級における知識人同士のつながりを調べていたところだっただけに、呼応するものを感じる。
思えば学部の1年生か2年生の頃、杉橋先生のゼミでアドルノのOhne Leitbildを読んで以来のお付き合いではある。
お元気でこの日を迎えられたことを幸いに思う。


別に博論審査にも陪席したが、議論が盛り上がる前に退出したのが残念。


ところで、十年以上前から、表象文化論の「黄金時代」だか「神々の時代」について云々するクリシェが繰り返されていて、たしかに荒ぶる神々がいたらしい創世記の信憑性は否定しないにせよ、その後が「鉄の時代」だなどとはまったく思わない。
ともかく十把一絡げにするような話ではないだろう。
同じ認識だと思われると困るので、あえて書いておきたい。


よしんば鉄であっても、鍛えられた鉄は容易に黄金を断ち切ることができる。