出版不況

小田光雄氏の「出版状況クロニクル」にこうある。

しかし出版敗戦の現実は昨年から新しい局面に入ったと思われる。それは本クロニクルでも一貫して言及してきた雑誌の凋落と広告収入の激減であり、雑誌を柱とする大手出版社を直撃し、月次の赤字が深刻になってきているようだ。今年は昨年よりもさらに多くの雑誌の廃刊、休刊に見舞われることだろう。近代出版流通システムは雑誌を中心にして立ち上がってきている。したがって雑誌の凋落は出版社のみならず、取次、書店にも多大な影響を及ぼすであろう。いよいよ後のない状況へと出版業界全体が追いこまれたことになる。(出版状況クロニクル9より)

背後にあるのは、エンターテインメント事業へのなし崩し的な吸収である。不況だと言われながら、雑誌や書籍の出版点数が増え続けていることを不思議に思っていたが、たとえばムックについては、次のような指摘がある。

単純に言えば、複合大型店の雑誌売場の拡大に対応して、出版社はムックの発行点数を増やしたが、まったく売れていないどころか、逆に売上が落ちていることになる。つまりフリー入帳のヴァラエティに富んだムックは複合大型店に立ち読み商品として置かれただけで、実売に結びつかず、レンタル市場のための囮商品を提供したとも言える。それはこれまでの雑誌の概念をはるかに越える異常な返品率の高さが証明していよう。これがエンターテインメント事業がもたらした現実である。まさに雑誌の危機は週刊誌や月刊誌のみならず、このようなムックの分野にも及んでいる。(出版状況クロニクル7より)

「囮」として利用されたわけである。
そして、多くの公共図書館もまたすでに、同様の「エンターテインメント事業」である。

再販制下において、1980年以後急激に増加したのは公共図書館であり、その数は2000館に及ぶ。しかしそれは理念なき膨張であり、スタンダードな選書の認識すらも育まれていない。現在においては無料貸本屋的な機能によって動いていると判断せざるを得ない。資料保存は死語と化し、それこそ10年後には廃棄処分の本だらけになるであろう。図書館の増加によって焼け太りしたのは、棚ぼた式にこれらを実質的に傘下に収めた日本図書館協会と大学の図書館学科の教師たちではないだろうか。(出版状況クロニクル5より)

大規模ビジネスとしての雑誌メディアは終わりつつあるのだろう。しかし、それはこの媒体の可能性とは別のことだ。とりわけ、所詮ビジネスになど馴染まなかった人文系雑誌にとっては。
では、どうするか。
どんなスケールと流通形態の雑誌がありうるだろうか。